稲村堂作業日誌

科学雑誌を読む日々。

科学雑誌を読む

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『サイエンティフィック・アメリカン・マインド』誌の最新号(SEPTEMBER/OCTOBER 2014)が届く。一般向け科学誌『サイエンティフィック・アメリカン』の姉妹誌で今号で94冊目。誌名が示すように、脳科学・心理学に特化した科学雑誌。目次から主な記事のタイトルを拾って訳してみる(キーワード=KWも付す):

p.30 The Power of Reflection(内省のチカラ)
【KW】メタ認知、瞑想

p.38 Love and Death(愛そして死)
【KW】ドメスティックバイオレンス

p.49 New Neurons for New Memories(新しい記憶をつくる新しいニューロン
【KW】神経形成、記憶、海馬、嗅球

p.54 An Unnerving Enigma(不気味な謎)
【KW】線維筋痛症、慢性疼痛

p.60 The New Group Therapy(新しいグループ療法)
【KW】うつ病、グループ療法

p.64 Let's Talk(会話の力)

p.70 Kill One to Save Five? Mais Oui!(五人を助けるために一人を見殺しにできる? モチロン!?)
【KW】母語・外国語による思考

 

p.07 Our earliest memories.(いちばん最初の記憶)

The Aesthetics of math.(数学の美学)
Marijuana and the teen brain.(マリファナとティーンエイジャーの脳)
Seeing the brain with light.(光で脳をのぞく)
Why mental rehearsals work.(メンタル・リハーサルが効くわけ)
Insights into autism.(自閉症の最新知見)
When injury leads to mental illness.(頭部への衝撃と精神疾患
Psychedelic drugs as therapy.(治療に使える幻覚剤)

p.28 Should You Tell Your Boss about a Mental Illness?(精神疾患を上司に打ち明けるべき?)

p.74 Is Mindfulness Good Medicine?(マインドフルネス瞑想はよい薬?)

科学書を読む

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正確に言えば、科学書ではない。高校生の頃に購入してから折りをみて再読している『寺田寅彦随筆集』(岩波文庫)に飽きたらず、先日は近隣の図書館に赴き、『寺田寅彦全集 第二十巻』(岩波書店1998)を借りてくる。この本には、大正四年から大正八年までの寺田さんの日記が収められている。二段組みのレイアウトで、一日につき多くて十行くらいの簡潔な記述が続く。西暦でいうと1915~1919年にあたる。約100年前の日記文ということになる(あらためて驚く)。
 で、以下のような記述にグッとくる。

三越に寄りて絵画展覧会を一見す。丸善にてウエリントンタイプライターを求む。

(大正四年 十一月二十五日の記述)

 ちなみに大正4年(1915年)11月25日は木曜日で、寺田さんの住んでいた東京の天気は晴れとのこと。

 で、この記述を目にして真っ先に思い浮かぶのは、「丸善三越」というエッセイ。『寺田寅彦随筆集 第一巻』(岩波文庫)に収められている(p.119)。100年近く前の日本橋かいわいを寺田さんは歩いていたんだなあ、書店をこんなふうにめぐっていたんだなあ、としみじみするエッセイ。青空文庫でも読める(http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2437.html)。個人的には、エッセイ前半の丸善について述べたくだりが好みです。

科学雑誌を読む

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いつものコーヒーショップで、昨日届いたばかりの『ネイチャー』 9/11号をパラパラとめくる。テナガザルのゲノムつまり全てのDNAの配列が解読されたという報告を読む。表紙のサルがキタホオジロテナガザル(の赤ちゃん)。解説記事もある(p.174)。さっそく読んでみる。

 で、解読してわかったことの一つとして、テナガザルでは"動く遺伝子"がゲノムの構成に重要な役割を果たしてきたのではないか?ということ。動く遺伝子そのものは、そもそもトウモロコシで見つかったDNA断片。いろんな種類がある。植物だけでなく昆虫(ハエとか)にも、そしてヒトにもある。こいつがゲノム上をぴょこぴょこ動くことで、遺伝情報の原典ともいえるDNAの配列を変えていく(ゲノムを再編成していく)。本のページに書き込まれた文字列がランダムに書き換えられていく、という感じ? 動く遺伝子は"ノイズ"を持ちこむんだな。

 で、進化的な時間を経て(ヒトを含む大型類人猿とテナガザルの系統が分岐したのが1700万万年前とある)、一夫一婦制でしっぽのない(!知らなかった)二足歩行できる今のテナガザルに至ったということらしい。

 テナガザルの動く遺伝子そのものの配列は、ヒトの動く遺伝子と似ているけど違うものと書かれている。テナガザルにユニークなもの。まあ長い時間をかけて変化して今の配列に至ったのだろう(これからも変わるかもしれない)。

 今度、動物園に行ったら、歌うように鳴くことでも知られるテナガザルの前で話しかけてみることにする(心のなかで)。君たちの細胞のなかにあるゲノム上の動く遺伝子はやけに動き回るらしいじゃないか。

Nature 513, 174-175 (11 September 2014)

『意識をめぐる冒険』のための地図 [011]

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●『意識をめぐる冒険』のための地図 [011]
『意識をめぐる冒険』 クリストフ・コッホ(岩波書店2014)の第5章では、興味深い脳障害がいくつか取りあげられています。アクロマトプシア、相貌失認(そうぼうしつにん)、カプグラ症候群、アキネトプシア…。このうちアクロマトプシアは、患者の色覚が失われてしまう疾患と書かれています。 〈彼らが経験するのは、白黒に変換されたカラーテレビのようなグレースケールの世界だ。〉(p.118)

 

 アクロマトプシアの人の世界から色だけが抜け落ちるということは、おそらく、「色を処理するための専用の脳内領域なり脳内回路」が存在することを間接的に意味するのだと思います(これが、数ページ後に書かれているセミール・ゼキの言う「エッセンシャル・ノード」の話につながる)。

 

 ものを見るのは目なので、網膜を経由して脳内へ流れ込んでくる"情報"のなかに色関係の情報も含まれているはずです。その情報が脳内をさらに進み、高次の脳領域において、ものの他の属性(形とか動きとか)と統合されるときに色関連の属性がきちんと統合されないと、色のクオリアだけが抜け落ちてしまうのでしょう。

 

 色関連情報が「どこで/どのように」損なわれてしまったのか、失われてしまったのか、ということに興味がわきます。想像してみます。情報が、脳内の"電線"のような通路を流れているあいだに減衰してしまったとか? あるいは、情報の中継地みたいな部位が脳内にあって、そこでの処理がうまくいかなかったとか? あと、何が考えられるかな。色まわりの情報だけを積極的に消失させる仕組みができあがってしまったとか? まあ、いずれにしても、色関連情報だけが、最終地点に達するまでに消えてしまうわけです。

 

 さらには、「消えてしまった情報」はどうなるのか? なんて疑問も出てくる。バラバラになってしまうのか? その情報の残骸は、何かほかの脳内処理に影響を及ぼしたりはしないのか? そもそも、色の情報はどのように「符号化」されているのか? わからないことだらけです(まあ、あれこれ想像することが楽しいわけですけど)。