稲村堂作業日誌

科学雑誌を読む日々。

今日のダーウィン

1832年2月29日]184年前の今日、ビーグル号航海中のチャールズ・ダーウィン(当時24歳)は、ブラジルのバイーア州サン・サルヴァドールの地にいる。

 

◉ある日、はりせんぼん Diodon antennatus が浜で泳いでいるのを捕えて、その習性を見て興味を感じた。この魚は皮膚がだぶだぶで、ほとんど球形に体をふくらませる不思議な性質があるので有名である。少しの間、水中から出して再び見ずに戻すと、水と空気とを口からも、またおそらく鰓裂〔さいれつ〕からも、多量に吸いこむ。

 

◉この動物はいろいろの防御法を持っている。ひどくかむこともでき、口からある距離まで水を放射することもできる。その時はあごの運動によって、妙な音をたてる。体をふくらませた時には、皮膚一面に生えている乳頭突起がさか立って尖りだす。しかももっとも奇妙なことは、触れられると腹の皮膚から紅紫色の美しい繊維性の物質を分泌することで、それは、象牙や紙を永久に染めて、今日に到ってもそのあざやかさが消えない。この分泌物の本性や用途については何もわからないでいる。

 

――『ビーグル号航海記 上』 チャールズ・ダーウィン岩波文庫1959)p.035-037