稲村堂作業日誌

科学雑誌を読む日々。

『意識をめぐる冒険』のための地図 [010]

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●『意識をめぐる冒険』のための地図 [010]
『意識をめぐる冒険』 クリストフ・コッホ(岩波書店2014)の第5章には、以下のような文章が出てきます:
デカルトは、主観的な経験は分割できないという事実を裏づける、ただ一つしかない器官を探した。そして、松果体と呼ばれる脳内構造は、脳のなかにたった一つだけしかなく、左右に分かれていないことから、この器官が魂(精神)の座である(今日の用語で言えば「NCCである」)という仮説を立てた。〉(p.134) で、すぐ後に、〈この仮説は、後に誤りだと判明したという話は有名だ。〉と続きます。

 ならば、松果体という脳内器官は実際のところ何をやっている器官なのか? ということが、ふと気になります。
 そこでまず、『カンデル神経科学』(メディカルサイエンスインターナショナル2014)を書棚から引っ張り出してくる。1696ページの大著。索引で「松果体」を引くと、哺乳類神経ペプチドのなかに「松果体ホルモン」というカテゴリーがあり、代表的なホルモンとして「メラトニン」が挙げられている。松果体に関する記述は、この本ではほかには見当たらない。この器官は現在、地味な存在となっているようです。

 まあそれでも、脳内のさまざまな器官が左右の半球に対をなして存在することを考えると、松果体が一つしかないという事実にはそそられる。もとは二つあったのに進化の過程で融合した可能性はあったりするのだろうか、とか。