稲村堂作業日誌

科学雑誌を読む日々。

科学雑誌を読む

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 夕方、『ネイチャー』 2014/10/16号がポストに入っている。いつものコーヒーショップで読み始める。「渡りをする蝶」として有名なオオカバマダラ Danaus plexippus のゲノムの解読結果が報告されている(p.317)。つまりこの蝶のDNAのすべての配列が明らかにされたということ。これは大いに興味がそそられる。さっそく解説記事を読んでみる(p.314)。

 この蝶の渡りについてシビれるのは、何と言っても、「複数の世代」で北米大陸を縦断(往復)するということ。つまり、世代交代をしつつ北上したり南下したりする(リレーしながら飛んでゆくというイメージ?)。〈同じ〉個体がルートを往復するわけではない。いったいどういうメカニズムで蝶がそんな渡りをしているのか? 不思議だ。個々の蝶が羽化するときにはたぶん親の個体はもういないはずだから、本能的に、北へ向かうのか南へ向かうのかわかっているということになる。

 で、解説記事を読み進めてみる。今回の論文で、渡りに関する何か新しいヒントでも得られたのだろうか?

 まず、以下のような記述に目が止まる。
Monarch caterpillars acquire cardiac glycoside compounds, which are toxic to predators, from the plant.
(幼虫が植物から得る強心配糖体化合物は、捕食者にとって毒性がある)

 「強心配糖体」というのは、捕食者(鳥とか)にとって毒として作用する物質らしい。つまり、毒を持つオオカバマダラの幼虫を、鳥は基本的に食べないということ。これはおもしろい。つまり鳥は、自分の生息域に住む昆虫のうち、どれを餌として食べていいのか悪いのか、「記憶」しているということ。仲間の鳥から「あの虫は毒をもってるから気をつけろ!」と教えられるわけはないので(たぶん)、どの個体も、一回は虫を食べてみて腹を壊してみて自力で学習していくということなのか。腹イタの経験を経て、この色をした虫はヤバイな!とか。さらに言えば、鳥は虫の「外見」と(腹痛のもとになる)「味」を関連づけているということにもなる。たいしたものだ。…って、今回の論文&記事の主役は、トリではなく、チョウだった…。記事の続きを読む。

Nature 514, 314-315 (16 October 2014)
オオカバマダラウィキペディアのエントリ:http://bit.ly/1vBJnev